気温がいったんぐっと下がったがまた持ち直し、さわやかな秋晴れが戻りそう。先月末、千葉遥一郎氏のリサイタルがあり、聴きに行った。アクト(音楽工房ホール)でやってるニューアーティストシリーズの一つ。名前も聞いたことのなかった初めてのピアニスト。演目に惹かれた。最初にブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」。ベートーベンの28番ソナタがあって、後半にバッハの小曲とプロコフィエフ6番の戦争ソナタ。ブラームスはかなりの難曲。複雑で中身の濃いものを見事に弾ききった。腕と手指が実に滑らかに曲線的に動く。見映えというのか音映えというのか、そういうものも感じた。実際のタッチと身体の動きが微妙にタイムラグがあるように見えて、おもしろかった。去年のモントリオールのコンクールで2位を射止めた俊英は演奏曲の解説も自身で書いており、文章もけっこういい。アフタートークではピアニストにならなかったら、雑誌の記者になっていたとも話されていた。一見、細身でシャイな感じ、訥々としているが、話し出すと考えをいろいろ持っていることがよくわかる。プロコフィエフはともかく、べト28番も「戦争」をイメージさせる曲ということで選んだという。時代に向かい合おうという気概が感じられた。ブラームスの変奏曲はともかく身体的に苦難で、今回のリサイタルは始終暗いものでした(小笑)、とまとめていた(おもしろいトークだった)。聴衆からの質問にも丁寧に答えていた。好きな作曲家は?バッハだそう。本番にあがらないためにどうしたらいいかという質問には「よく練習すること」と答えていた。練習していればあがっても間違えないし、あがるのも悪くない、適度な緊張感がよいと言われていた。最後にどのような演奏家になりたいかと聞かれ、「社会とつながりのあるピアニスト」と仰った。あまり聞かない答えながらそうだろうと納得した。今後も注目したい一人である。