映画「オッペンハイマー」

映画「オッペンハイマー」
 アカデミーで作品賞、監督賞など7部門を取った「オッペンハイマー」を観た(ついに)。3時間の大作。一言で言えば圧倒された感じ。原爆を開発した人物の人生ドラマである。歴史上の実際の人物であるから伝記風な書き方もできるのだろうが、そうではなく、映画的な刺激と処理に満ち満ちている。ストーリーも史実に即していながらかなり劇的。画面構成から音楽効果まで含めて「映画」の凄みを感じさせる。クリストファー・ノーラン監督の技の凄さだろう。原爆を創造してしまった物理学者としての苦悩や立場が軸となっているが、いわゆる原爆の悲惨さを描き、反戦を訴える映画ではない。ヒロシマ・ナガサキの惨状が画面にないのはある意味当然である(独ヒトラーも出てこない)。惨状については主人公の中で悪夢的想像がなされる、それで十分と思った。アメリカ国民や大統領、軍部、司法を描くことで間接的な批判にもなっている。マンハッタン計画の成功がメインに描かれてはいるが、柱となっているのは、戦後オッペンハイマーと対立するルイス・ストローズとの関係である。「赤狩り」をめぐる、二人の聴聞会(カラー)と公聴会(モノクロ)、その両方からオッペンハイマーの人生が回顧されるという全体構成(原爆開発は入れ子構造の中にある)。絶え間ない音響効果によって各場面を細切れ感をなくしている(音楽と編集の合わせ技が見事)。オッペンハイマーは人類の一人として取り返しのつかない怪物を生んでしまった、地球を破壊し得る怪物。自責の念にさいなまれ、深く悔いる。が、しかしこの後悔は決して先に立つことはない。宿業であろう。あるいは神の人間に対する試練か。オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーが素晴らしい。パートナーら、女性関係にも踏み込んで長尺となった。見方によっては盛り込みすぎの感もあったか。中身が伏せられていた冒頭近くのアインシュタインとの会話が最後の最後で明らかにされる。これは心憎い演出だった。
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