映画「落下の解剖学」

映画「落下の解剖学」
 この春「オッペンハイマー」に次いで観たかった映画である。こちらは去年カンヌでパルムドール(最高賞)を射止めた。ジュスティーユ・トリエ監督の「落下の解剖学」。作家の妻サンドラ、作家を目指す夫サミュエル、事故で視覚障碍者となった息子のダニエル、その三人に愛犬スヌープをくわえた家族。フランスの山奥の山荘に住んでいたが、ある日、サミュエルが屋根裏から墜落して亡くなった。事故か自殺か、それとも他殺か。殴打痕から現場にいたサンドラが疑われる。旧知の弁護士ヴァンサンに弁護を依頼、自殺をしたと見立て、検察側と対立、映画は半分以上が法廷シーンとなる。息子ダニエルの証言が変わったり、他の証言者や専門家の言葉によって見立てが180度変わったりする(「藪の中」状態)、が、いわゆる真相探しのミステリー映画ではない。法廷を通して見えない夫婦の関係が徐々に明るみに出てくるなど(前日の夫婦喧嘩のやりとりが録音されている)、各人の在り方生き方がテーマであろう。視覚障害になった息子のことも夫婦に影を落としている。裁判なので最後に有罪無罪が出るわけだが、物証や科学的客観的事実が見いだせないケース、最後には息子ダニエルの証言が重要なものになる。妻役ザンドラ・ヒュラーが複雑な心理を見事に表現している。映画を見た者がその人なりの判断を下すほかないと思うが、私は妻の苦い孤独がありありと伝わるラストと感じ入った。エンディングにも使われたダニエルとサンドラが連弾するショパンのプレリュードが実に象徴的。2日まで、シネマイーラ浜松にて。


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